ドイツの保険は高い。
一か月に4万円は払っている。それも掛け捨て。

この高い保険料、私立の一等料金だからなのだが、払うのはやめられない。
なぜかというえば、その待遇。

まず一人部屋がもらえる。まるで高級ホテルのようなインテリアに、
おしゃれな器に入ってくる食事。

病院の受付での笑顔が一等保険加入者では明らかに違うし、医者の診療にいたっては
儲けが違うので時間が長く、内容も違うのだそうだ。

実は、この保険のクラスによって医者やスタッフの対応が違うというのは、
社会問題にもなっている。

私は今のところ幸か不幸かの健康体で、年に一度の近くの診療所の定期健診以外、
病院のお世話にならないのだが、鼻づまりがあったときに、折角の機会だからと思って、
一等保険加入者だけが行けるという、大学教授の診察所に行ってみた。

歴史的建築物であろう耳鼻科の、その分厚くて大きなドアを開けて中に入った。

とたんに良い香りが漂ってきた。
鼻をひそかにクンクンさせてたどり着いたところは待合室のコート掛けのスペースだった。

そこにはお年を召した男性しかいなかったのだが、奥様のお手入れが行き届いているのか。

で、そのコートたち。見たこともないような生地。
まるでファッションショーの新作発表会の楽屋にあるようなピシッとしたものばかりで、
マジマジと見てしまった。
ここにきている患者さんたちの生活ぶりをかいま見た気がした。

一方、どう見ても普通のつるちゃんのコート。
普通で何が悪い、と開き直る前に、前の人が帰るときに取りやすいようにと理由をつけて、
自分のコートを一番奥に隠すように掛けた。

そして診療室へ。

つるちゃん担当の医者はフライブルク大学の教授だそうで、鼻づまりを診察した時間よりも、
世間話をした時間のほうがはるかに長かった。
教授の娘さんはドイツでとても活躍している舞台女優であることも判明した。

鼻づまりの薬を買う前に、その娘さんが主演しているDie Papstinという題名のDVDを
アマゾンで注文した。

その映画長かったのだが面白くて、驚いたことに、見終わったら鼻づまりが治っていた。

教授の治療法とやらは、いわゆる、”一等保険患者用”だったのだろうか。